印刷の面白話│実は違う！日米のゴシック体とヨーロッパのゴシック体

ゴシック体と呼ばれる書体は、日米とヨーロッパでは異なります。日本人やアメリカ人がイメージするのは上の図の1ですが、ヨーロッパでは2をイメージするのです。なぜこんなことが起こるのか、2のゴシック体を中心に考えていきましょう。

ゴシックと呼ばれるものといえば、12～15世紀にヨーロッパで流行したゴシック建築です。代表はパリ中心部の「ノートルダム大聖堂」、下にある写真の通り、ステンドグラスや尖塔、細かな彫刻が特徴ですが、ゴシック体のスッキリとしたモダンなイメージとは異なります。なんとなくおどろおどろしくて、ドラキュラ伯爵やコウモリが似合いそうですね。

ゴシックと呼ばれるものは、近年のファッションにも見られます。ゴスロリファッションとは、ゴシックとロリータを組み合わせたもので、レースやフリルが付いたコルセットやバッスルスカートが代表的なアイテムです。愛好者が好む色は黒、ゴシック建築と同様のおどろおどろしさと、ロリータファッションのかわいさの両立を目指しているようです。とはいえ、こちらもゴシック体にあるスッキリとか、モダンとかのイメージはありません。

ゴシック建築やゴスロリ・ファッションと好相性に感じられるのは、日米でゴシック体と呼ばれる1の書体ではなく、ヨーロッパでゴシック体と呼ばれる2の書体でしょう。それもそのはず「ブラックレター」とも呼ばれる2の書体は、ゴシック建築が流行した12～15世紀ごろに手書きされていたものを元にしています。

ルネサンスはゴシック期の後、15～16世紀の一大文化運動です。古代のギリシャやローマを理想とする一方で、それまでの流行を否定しました。ゴシックとはゲルマン民族の一つであるゴート人に由来しており「ゴート人の、ゴート風の」という意味です。ゴート人はローマ帝国と何度も戦い、衰退の原因となったことで知られています。ルネサンス期の人々はあこがれのローマ帝国の敵役の名前を、前時代に流行した建築や書体に与えたのです。

ゴシック建築や2のゴシック体は、ルネサンス期の人々にとって古くさく、否定すべきと感じられたのでしょう。ちなみにルネサンス期の人々が手書きするのに好んだのは3の書体「ローマン体」、ローマンとは「ローマ人の、ローマ風の」という意味です。

前時代のものとされてしまった2のゴシック体ですが、ルネサンス期に滅んでしまったわけではありません。活版印刷はグーテンベルクにより15世紀半ばに発明されましたが、彼が採用したのは2のゴシック体をまねた活字です。印刷とはいえ、まだまだ本自体が貴重品だった時代。読みやすさより、格調の高さを優先したのかもしれません。

日本人が初めてゴシック体を目にしたのは1869年とされています。ウィリアム・ギャンブルというアメリカの印刷技師が、活版印刷や活字鋳造の技術を伝えましたが、そこには、ゴシックと呼ばれる1の書体に近いものも含まれていました。以来、日本でゴシック体といえば、ギャンブルが持ち込んだ1の書体を元にしたものを指すようになりましたが、アメリカとヨーロッパでゴシック体が指すものが異なる理由はよくわかりません。わかったのは「アメリカで作られた『オルタネート・ゴシック』という書体の呼び名が縮まり、ゴシックと呼ばれるようになった」という説が怪しいということです。確かに「オルタネート・ゴシック」は1のゴシック系の書体ですが、作られたのは1903年であり、そのころにはすでに日本にゴシック系の書体は伝わっているからです。「肝心のことがわからないじゃないか！」とお叱りを受けそうですが、ヨーロッパ系のデザイナーと打ち合わせする際には、ゴシック体には要注意ということで。

私たち「ABポスター」は、大判の出力を得意にしています。ゴシック体でもローマン体でも、どんな書体でも印刷できますが、注意していただきたいのは、Adobe（アドビ）社のIllustrator（イラストレータ）で制作したデータの場合、文字は必ずアウトライン化していただくことです。美しい文字の出力にご期待ください。