■今回の印刷面白話は…名画モナ・リザから考える印刷技術の限界とブレイクスルーまで
誰もが知る巨匠レオナルド・ダ・ヴィンチの傑作、モナ・リザの絵画複製は簡単ではなく、当時の印刷技術におけるブレイクスルーが必要不可欠でした。
今回の印刷面白話では、モナ・リザでの色彩技法と色の再現の課題を考えながら、その問題をクリアした革新的な印刷技術についてお伝えします。
誰もが知る巨匠レオナルド・ダ・ヴィンチの傑作、モナ・リザの絵画複製は簡単ではなく、当時の印刷技術におけるブレイクスルーが必要不可欠でした。
今回の印刷面白話では、モナ・リザでの色彩技法と色の再現の課題を考えながら、その問題をクリアした革新的な印刷技術についてお伝えします。
モナ・リザが名画であることは、その卓越した構図や色彩をみれば一目瞭然です。これほど私たちの心情に深く迫るモナ・リザには、レオナルド・ダ・ヴィンチならではの天才的な絵画の表現技法が用いられています。
モナ・リザを注意深く観察すると、ハッキリ鮮明な絵画とは違い、どこか霞んだぼやけた表現が多用されていることに気づきます。これはモナ・リザが絵画技法のひとつである、スフマート (Sfumato)という手法で描かれていることが理由です。「スフマート」はイタリア語の煙に類似する言葉ですが、その名が表す通り、描画する輪郭を明確にせず意図的にぼかして人物を描画します。素人目線ではデメリットにもなり得るスフマートですが、レオナルド・ダ・ヴィンチはその天才的な手腕で見事に名画の余韻として昇華させています。
レオナルド・ダ・ヴィンチは現代のIQ測定において、推定180を超えるほどのIQの持ち主とされています。その高い知能指数は、モナ・リザの薄塗り技法にも余すところなく活用されています。モナ・リザでは色彩の濃度を濃い色で配置するのではなく、意図的に薄い色を重ねることで色の深みや濃さとして表現しています。1回に重ねる絵の具の濃度は、場所によってはほぼ透明に近いほど。このような薄いインクで何度も塗り重ねられていることが、モナ・リザの調査・解析から判明しています。
芸術の世界では「神は細部に宿る」という言葉があるように、モナ・リザ制作にはレオナルド・ダ・ヴィンチの妥協のない情熱が込められています。レオナルド・ダ・ヴィンチは当時の芸術家と比較して、着手から完成させた作品が極端に少ないことが知られています。彼が完成させた芸術作品は生涯15点程度しかなく、あとは未完で放置された作品が山ほどあるのだとか。その中でもモナ・リザは、レオナルド・ダ・ヴィンチの代表作にふさわしく、その制作期間は1503年〜1519年のなんと16年間!一説ではこの段階でもモナ・リザは未完成という解釈があるほど、これは完璧主義者の所業と言わざるをえません。この熱量と制作期間の長さは、モナ・リザの絵画複製を困難にしている、紛れもないひとつの大きな要因といえるでしょう。
天才レオナルド・ダ・ヴィンチの色彩・質感を再現することは、当時の印刷技術では不可能とさえいわれました。この難題をクリアする印刷技術のブレイクスルーとはどのようなものなのでしょうか。
レオナルド・ダ・ヴィンチの時代の絵画複製は、美術家が目視で色を判断し、それに近い絵の具を選んで制作することが主流でした。特にモナ・リザの模写においては、スフマートで重ねられた色を正確かつ客観的に知ることが難しく、贋作を得意とする美術家でも匙を投げるレベルでした。近年では画像解析のためのスキャン技術が大幅に向上しており、人間の目では知ることができないミクロな色彩まで、正確に数値化して客観的に再現できます。またスキャンで読み取った色値は、複製の段階で調整されたモニターとカラーマネジメントにより、完璧にオリジナルと同様のグラデーションを描画できるようになりました。
アナログ絵画では絵の具の細かな凹凸やグラデーションが複雑に発生し、デジタルカラーの均一な質感とは違う余韻を作品に宿します。このアナログ特有の質感をデジタルで再現するために、2.5Dリアルプリンティングという新たな印刷技術が確立しました。2.5Dリアルプリンティングは別名を質感印刷表現といい、スフマートで重ねられた絵の具の色彩と質感を見事に複製することができます。2.5Dリアルプリンティングでは6色以上の特殊なUVインクを使い、平面の上に立体的なモナ・リザの質感を描写しています。
モナ・リザの複製において、長らくスフマートのグラデーション再現が大きな課題とされていました。一度は再現不可能とまでいわれたモナ・リザのスフマートですが、現代ではジークレー印刷という印刷の技術革新により見事にクリアされています。ジークレー印刷とは従来の印刷とは違い、基本的に転写する「版」と呼ばれる金属板を必要としません。さらにCMYK以外にも多くのインクで印刷可能であり、多いものでは12種類ものインクで素材に印刷することから、従来では再現不可能な微細なグラデーションにも対応します。印刷に必要なコストも比較的安いことから、近年ではデジタルアートでその活躍の場を拡大していることもジークレー印刷の魅力です。
印刷技術の数々のブレイクスルーにより、かつて不可能とされたモナ・リザの複製は可能となり、私たちに名画の素晴らしさを本物と同じクオリティで伝えてくれるようになりました。
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