■今回の印刷面白話は…印刷した紙に粉をまく!?裏移りを防ぐスプレーパウダーの秘密
写真風合成イメージ(AI生成)。実際の設備・実験の撮影写真ではありません。
紙の間隔を保つ役割の概念図。粒の大きさ・紙の隙間は誇張しています。プリンターから出たばかりの紙を触って、インクが指に付かないか気になったことはありませんか?印刷工場では、刷り上がった紙が次々と積み重なっていきます。まだインクが十分に乾いていない紙を重ねると、隣の紙を汚してしまいそうですよね。そんな場面で活躍する道具の一つが、「スプレーパウダー」という小さな粉です。印刷に必要なのは紙とインクだけ、と思っていた方には少し意外な脇役かもしれません。今回は、この粉が担う仕事を覗いてみましょう。
この記事の要点
スプレーパウダーは、刷り上がった紙の表面に少量散布し、紙どうしの密着を防ぐ印刷用の粉です。紙と紙の間に隙間を作り、インクが別の紙へ移る「裏移り」を防ぐ役割を担います。
- 色を付けるインクとは別に、紙を重ねる工程を助ける粉が使われることがあります。
- 小さな粒が間隔を保つ役を担い、紙どうしの密着を抑えます。
- 使用の要否や種類・量は、印刷方式、用紙、絵柄、後加工などに合わせて選びます。
1.刷り終わった後にも、気を配ることがある
インクが隣の紙に移る「裏移り」
ここでいう裏移りは、印刷した面のインクが、重なった別の紙の裏面などへ付いてしまうことです。紙を光にかざしたときに向こう側の文字が透けて見える現象とは、分けて考えるとわかりやすいでしょう。せっかくきれいに刷れても、重ねたときに汚れてしまうのは困ります。
この対策が大切になる場面の一つが、一枚ずつの紙に印刷する「枚葉印刷」です。読み方は「まいよういんさつ」。特に、油性インクを使う枚葉印刷などでは、刷った紙を積み重ねる際の裏移りに気を配ります。そこで、紙の表面へ少量のパウダーを散布する工夫が使われています。
粉は色を付けるためではありません
スプレーパウダーは、絵柄を描くインクとは別の印刷資材です。紙が重なり合う場所で、小さな粒が「間隔を保つもの」として働きます。専門的にはスペーサーと呼ぶ役割ですが、ここでは紙と紙の間に置く小さな支え、と考えてみてください。
たとえば、重ねた板の間に小さな支えを挟むと、板どうしがぴったり接しなくなりますよね。パウダーも、それに似た考え方です。もちろん実際の粒はずっと小さく、紙一面を粉で厚く覆うためのものではありません。
2.小さな粒にも、いろいろな種類がある
でんぷんから作られるものも
印刷用の粉と聞くと、特別な金属の粉を想像するかもしれません。ところが、でんぷんを原料にしたスプレーパウダーも使われています。メーカーのKSL Staubtechnikは、でんぷん系のほか、鉱物を原料にしたものや、糖をもとに作った材料を使う製品も紹介しています。同じ役割の粉でも、材料は一つではないのです。
また、粒の大きさや表面の加工にも違いがあります。JAGAT(日本印刷技術協会)の解説では、水をはじくように加工したものと、水になじみやすいものが紹介されています。「白い粉なら何でも同じ」とはいかず、印刷の条件に合うものを選ぶ必要があるのですね。
たくさんまけば安心、ではない?
裏移りを防ぐなら、粉を増やせばよいと思うかもしれません。しかし、日研化学研究所の製品資料は、必要以上の散布が、もう一度印刷する「追い刷り」や、その後の加工に影響することを案内しています。役立つ道具も、使い方が大切というわけです。
用紙の性質、絵柄、印刷の後にどのような加工をするか。こうした条件を踏まえ、種類や散布量を合わせていきます。目立つ効果を出すために何かを足すのではなく、仕上がりを邪魔しないよう必要な働きを持たせる。小さな粉にも、現場の調整が詰まっています。
3.きれいな印刷物は、重ね方まで考えられている
すべての印刷物に使うわけではありません
ここまで読むと、どんな印刷物にも必ず粉をまくように思えるかもしれません。実際には、使用するかどうかも条件によります。JAGATの解説には、絵柄の面積が小さく、インクの膜が薄いなど、条件によってパウダーなしで印刷できる場合も挙げられています。
家庭のプリンターも、大きな印刷機も、同じ方法で紙を仕上げているわけではありません。印刷物を見ただけで「これは必ずパウダーを使っている」と決めつけないところも、この話のポイントです。
主役を支える、目立たない工夫
印刷物を見るときには、写真の鮮やかさや文字の読みやすさに目が向きます。けれども、その状態で手元へ届くまでには、刷り終えた紙をどう扱うかも考えられています。色を付ける技術だけでなく、付けた色を隣の紙へ移さない工夫も、仕上がりを支えているのです。
次にチラシや冊子を手にしたら、紙と紙の間で働く小さな脇役も思い出してみてください。普段は気付かない工程を知ると、見慣れた印刷物にも、もう一つの面白さが見えてくるかもしれませんね。
参考資料・出典
工程や技術の説明は、業界団体とメーカーの公開資料で確認しています。
執筆・発行:ABポスター / 公開日:
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